Book Review!


作者:坂口 安吾

レビュー: 坂口安吾全集〈14〉 (ちくま文庫) (文庫)

 昭和6年から22年までに発表した88編のエッセイが発表順に収められている。国粋主義全盛の潮流に抗して戦時中に発表した「日本文化私観」、昭和21年、生きるためには堕落が必要だと逆説的な倫理観を打ち出した「堕落論」など権威を信じぬ合理主義精神の鋭さは評価されている。

ここでは「愉しい夢の中にて」に注目したい。これは著者生前の刊本には収められていない。昭和9年発行の「桜」第2巻第3号(河田誠一追悼号)に発表された。この追悼欄には、安吾の他に井上友一郎、北原武夫、田村泰次郎中河与一らが寄稿している。

 安吾の追悼文が「愉しい夢の中にて」である。親友河田の夢をちょうど昨夜見たということから書き出している。楽しい夢だったが、河田自身は貧乏な境遇で!
あった。窮乏した生活をしていながら、人間の底に光があった。逞しい気骨があった。どん底にあっても湿気というものを持たなかった。あんなに貧乏であったのに、「光ある実在」を教えてくれた文学の友河田に感謝する。

安吾は河田の芸術を好んだ。たくさんの失敗作を書いたが、その失敗の底に光る高い精神を見抜いていた。河田は大成の日を見ずに24歳の若さで病没した。夭折詩人『河田誠一詩集』(昭和15年刊、昭森社)がある(雅)


更に詳細を見る