Book Review!


作者:久生 十蘭


レビュー: 怪奇探偵小説傑作選〈3〉久生十蘭集―ハムレット (ちくま文庫) (文庫)

日本の誇る最高の小説家のひとり、久生十蘭の作品がひじょうに入手しにくくなっているようで、悲しむべき状況と思います。そんな中で、手に入る数少ない本の一冊が本書。「異端」や「怪奇」などの形容詞つきで語られることが多い著者ですが、一語たりとも無駄のない緊密な構成、飽きさせないストーリー、様々に張られた伏線、読むたびに異なる読後感、驚くべき博識、・・・ 小説家として当然なこれらの資質と努力、決して妥協をしない姿勢が、昨今ではあまりに当然でなくなったため、「異端」呼ばわりされる憂き目にあうのかもしれません。
「日々をさりげない視点で描いた~」とか「瑞々しい感性で~」とかのどれも十把一絡げな昨今のエセ小説、使い捨てカイロ的などうでもいい小説に飽きた方には、本書を読!
めば、小説のおもしろさを再認識されることは間違いありません。著者の代表作ばかり集められているので、いつ、どこから読んでも楽しめます。倣岸不羈な明治貴族の純愛を描いた「湖畔」、母を絶望的に思慕する「母子像」、家族愛への渇望がテーマの「虹の橋」、奇怪な動物磁気学による「予言」、ハリウッドも真っ青の驚くべき「地底獣国」、きわめつけは、3ページ程度とはとても思えない強烈な密度、硬度の「昆虫図」以下の三作。ホンモノの小説ここにあり、です。


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