Book Review!


作者:岩田 靖夫


レビュー: ギリシア哲学入門 (ちくま新書) (単行本)

著者がだいたい2005年以降から最近までものしてきた文章をまとめた作品である。ちくま新書の前著『よく生きる』(2005年)の続編といった趣がある。よって、同新書の「○○入門」シリーズのように著名哲学者・思想家の概要を気鋭の著者が書き下ろしで示す、といったものを期待すると内容に不満が残るだろうが、ギリシャ哲学研究の重鎮がいま考えていることを、現代に生きる読者に対して比較的平明に提示した本としては、文句無く面白い。ソクラテス登場の革命的な意義、プラトンの正義論の読み直し、アリストテレスにおけるデモクラシー思想の現代的意義など、それぞれの議論がとても思惟深くかつ専門的に成りすぎなくて読みやすい。
他方で、「ギリシア哲学」と銘打ちながらも、ポリスで活動する個人の理性と!
自由と平等の世界の限界性もみすえており、その突破口をキリスト教をはじめとする宗教やレヴィナスの哲学に求め、「他者」への配慮/との共存の重要性についても繰り返し論じている。特に7章の「根源への還帰」は仏教も含めた宗教論で、著者にはこうした側面もあったのかと驚かされた。また、第1章の「哲学のはじめ」は高校生に対する講演に基づくものだが、こちらは西洋思想史を幅広く見渡しつつ人間が生きることの意味を説いたもので、若者向けの哲学入門として面白かった。
といったように、このバラエティ豊かさからして、本書むしろ「岩田靖夫の哲学入門」とでも称するのが適当かもしれない、と思った次第である。


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