Book Review!


作者:上野 俊哉


レビュー: カルチュラル・スタディーズ入門 (ちくま新書) (新書)

著者が強調するのは、カルチュラル・スタディーが特定のディシプリンに縛られない、開放系の学問ー実践だということである。だが開かれたものであることと、無規範なことは違う。本書ではさまざまな「カルスタ」に帰着する学問潮流が紹介されるが、あまりにも総花的で全く頭に残らない。経済・政治への「換言主義」が批判されるが、何故批判されなければならないのかが説得的に明らかにされていない。

確かに、19世紀末までの社会科学は、誰にしろ特定の学問に縛られない「総花的」なものではあった。法学でいえば法実証主義が台頭したあたりから、専門化・個別化がすすんでいったといえる。それが現在のように「蛸壺」化したのは著者らがいうように批判されなければならない。しかし、専門化は独自の規!
範性をもちえているからこそ、論争的であり発展性があるのだ。今の(日本の)カルスタは、そうした緊張関係や論争を学問のうちにまったく備えていない。だから、延々「入門書」しか出てこないのだ。

本書は「入門書」なので、総花的なものになるのは仕方ないのかもしれない。でも、もう少し既存の学問に対して誠実に向き合い、地道な研鑽をしないと、「なんでもあり」で消費されてしまう可能性が高い。カルスタの最大の意義は、消費社会、消費全体主義批判にあるとおもう。にもかかわらずカルスタの学問のあつかわれかたが、何よりも消費的な、刹那的に思われるのだ。


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