Book Review!


作者:ミハイル・バフチン


レビュー: ドストエフスキー詩学 (ちくま学芸文庫) (文庫)

 “ポリフォニー”と“カーニバル”、二つのキーワードをもとに本書はドストエフスキーの作品世界を読み解く。ドストエフスキーが何を言っているか、ではなく、どのように語っているか、つまり彼の作品の叙述構成そのものに思想としての迫力があることを鮮やかに示した着眼点が非常に面白い。

 ドストエフスキーの小説世界に登場する人々の発する言葉には、その人物でなければ言えないという必然性がある。ストーリー構成上のコマとして作者によって操られているのではなく、自分自身の言葉を語り始める彼らは時に作者の思惑をも超えた存在感を示す。すべての登場人物が主体的な意識を持っており、そうした複数の意識のありようを同時に描き分けることができたところにドストエフスキーの作り上げた??!
?説世界の画期的な重要性があるのだと指摘される(→ポリフォニー)。作者の思惑によって一方向的に世界を作ろうとするのではなく、ドストエフスキーの場合にはそのように俯瞰する一元的な視点は最初から存在せず、多様な声がそれぞれ自律的に響き、相互に矛盾しながらも絡まり合っていくカオティックなありのままを小説世界において再現し得ているところに特徴がある(→カーニバル)。作者によるモノローグ型の言説空間が理性中心の合理主義・啓蒙主義に淵源する西欧近代文学を体現していたとするなら、それとは異なる言説空間をドストエフスキーは示したという読み方に興味を覚えた。


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