Book Review!


作者:ブリューノ モンサンジョン

レビュー: リヒテル (単行本)

 リヒテルの音を聴くたび「抑制されたダイナミズム」という言葉が浮かぶ。おのれの中で激しく渦巻くものを、冷静に見つめている姿がある。で、リヒテルとはだれだったのか?ドイツ人の父をスターリンの粛清で失った悲劇の人?亡命を恐れた当局に長らく西側公演を禁じられた「幻の巨匠」?前半は本人のインタビューを一人称でまとめた回顧録。時代のきしみの中で、リヒテルがどう音を紡いでいったかを知る手がかりがある。そして後半は、リヒテルが長年綴った「音楽備忘録」。自己の演奏への過酷なまでに突き放した分析や同時代への演奏家への辛辣な評が、しごく端的に記されている。マエストロと呼ばれた男の肉声は、その語り口がたんたんとしているだけに、悠々とした響きがする。


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