Book Review!


作者:稲葉 振一郎


レビュー: 「資本」論―取引する身体/取引される身体 (ちくま新書) (新書)

本書は、あとがきにも述べられているように「セーフティネット論」である。これだけ聞くと「またつまらない人道的説教か」と思うかもしれないが、そうではない。本書はセーフティネットの根拠を、いわゆる「人権」に頼らずに導き出そうというのだ。
 
その道具立てとして、本書はホッブズ、ロックの議論を題材にして成員資格について論じていく。その道中でちりばめられる関連書の紹介は、人文系ヘタレのための教養書にふさわしいものとなっている。
 
本書の結論は、著者が謙遜するようにそれほど突飛ではない。古典世界において財産を持っていることが成員資格となったように、「人的資本」を財産とみなして、それを皆が持っていると擬制して、そのことによってセーフティネットを根拠づけよ??!
?というのである。
 
著者が「財産」にこだわるのは、それによって安定性と継続的参加と不可侵の個人的領域が確保されると考えるからだ。この視点は、しばしば羅列的で場当たり的なものと思われがちな「人権のカタログ」を、ひとつのまとまった固まりとして把握するために有効だろう。
 
本書の試みが成功しているかどうかはよくわからない。しかし、「人権」というジョーカーに頼らずにどこまで社会を構想できるか、という思考実験を行なった心意気は評価されてよいと思う。


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