Book Review!


作者:村瀬 学


レビュー: 自閉症―これまでの見解に異議あり! (ちくま新書) (新書)

 自閉症患者に良く見られる症例として取り上げられる「特定の分野についての異常なまでの記憶力」について、著者は電話番号の記憶術などと対比して人間に普遍的なものであることを説きます。
 しかし、「個人史を把握することなく自閉症患者を症例に当てはめることにこだわる」として学説を批判したり、「そのような学説を援用し既存の『医療・福祉』の枠組で患者を処遇している」と行政を批判し始めるあたりから雲行きが怪しくなっていきます。この後、著者は自身の体験談として遠方へ電車で出かけたがる患児に付き添った例を挙げ、さらにその類例として山下清の放浪談とレッサーパンダ帽を被って女子大生を刺殺した自閉症患者とおぼしき犯人の放浪癖について2章にもわたって触れています。そこで「も??!
?犯人の養護学校時代に周囲が犯人の放浪癖を理解していれば、彼の行動範囲を把握でき別な結果があったかもしれない」と述べているのを見て、ここまで引っ張ってきて言いたかったことはそれだけですか、と思わず突っ込んでしまいました。
 結局、「自閉症患者には、先験的な判断にとらわれることなくただ寄り添いなさい」というメッセージ以外何も受け取ることはありませんでした。もちろん、親御さんや施設職員さんのご苦労を無視するべきではありませんが、それは体験談のような本から得ることができるはずで、本書のようないやしくも研究者が書いた本はそれとは別の役割があるはずです。


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