Book Review!


作者:織田 作之助

レビュー: 織田作之助 (ちくま日本文学全集) (文庫)

織田作を初めて読んだのが本書。舞台やドラマで有名になり過ぎた「夫婦善哉」のせいで、太宰、安吾に比べて、何となく軽んじていたが、読んでみると、良く出来た作品は、こと文章に関しては、一番見事ではないか、と思ったぐらいだ。大変な完成度だと思った。「夫婦善哉」は、駄目親爺と可愛い苦労人の妻の安易な人情ものではなく、それでは終わらない、奥行きと格調が全編を覆っている。舞台や映画では表現し難い細やかな日常の営みを、丁寧にえがいているがためだと思う。でも、本書所収の「蛍」は、最高傑作だと思う。薄幸な女、登勢の半生を描いた「時代物」だが、べたべたした感じに堕しかねない話を、これまた、豊かな情感のなか、しかし格調高く奥深く描いているのだ。物語の後半、どうやらこの話は、??!
?末の、あの、「寺田屋」の話であることがわかってくるが、だからといって、そこに格別な意味を与えているわけではなく、大きな時代のうねりのなかで、それとは関係なく、ありふれた、しかし、蛍の光のように淡く輝いては消えていく素敵な女性を描いているのだ。


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