Book Review!


作者:シモーヌ ヴェイユ


レビュー: 重力と恩寵シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄 (ちくま学芸文庫) (文庫)

 34歳で夭逝した思想家 シモーヌ・ヴェイユが、第二次大戦下、マルセイユでカイエ(ノート)に書き留めた断想集。苛烈で妥協を許さない彼女の自己否定の言葉は、現代のわたしたちが読んでもなお意味深く、硬質で佶屈な比喩はかえって、彼女の生きた苛酷な時代を生々しく浮かび上がらせる。ヴェイユの述べる‘重力’や‘真空’‘恩寵’の意味を知るには、どれほどの極限状況を経験しなければならないのか。現代のわたしたちは、それを語るにたる資格を、今後ももちえないのか。むろんわたしも、彼女を十分に語る資格をもたない。けれども、わたしは本書を、ときどき読まずにはいられない。

 信仰告白にも似た彼女の激しい感情吐露の言葉は、仮借ない自己否定を突き抜けた極限としての自己回帰、時や場所を!
超えなお古びぬ永遠の叡智、悲惨のさなかでさえ一瞬も疑いえなかった人類への希望、などを照らし出しつつ、多くはデッサン風・アフォリズム風に、飾らない素朴さで縷々綴られており、どの頁を開いても、むしろ逆境にいるときほど、わたしたちのこころの奥深く、真理への愛、真実への目醒めとを呼び醒ます。たしかな思弁の反復により、純化された、透明な、思想そのものとなった言葉の手応えのかけがえなさ。


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