Book Review!


作者:吉村 昭

レビュー: 回り灯籠 (ちくま文庫) (文庫)

本書に収められた一篇一篇は極めて短いエッセーであるが、それぞれが強く訴えかける力を持っており、濃密な読後感を与える。戦記小説や歴史小説を構想し書き上げるなかで氏が蓄積してきたであろう経験の豊かさや選び磨かれ抜かれた言葉の重みが、それを可能としているのであろう。

それにしても、氏のいう「仕込みどき」(137頁)という言葉は印象的である。氏なかりせば世に出なかったであろう史実の存在、言い換えれば史実が恰も語り部としての氏の到来を待っていたかの如き様相は、話は飛ぶが、下村脩博士による蛍光タンパク質の発見とともに姿を消したフライデー・ハーバーのオワンクラゲたちの挿話を想起させる。

なお、三篇選べと云われれば、個人的には「大人の世界」、「大地震と潜水艦??!
?そして「朝顔」となる。


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