Book Review!


作者:ジェイン・オースティン

レビュー: エマ (上) (ちくま文庫) (文庫)

『エマ』は、『高慢と偏見』とは少しタイプが違うけれど、素晴らしい傑作だ。美人で、ちやほやされて育った、21歳のお嬢様エマが、他人の「縁結び」を色々と試みるが、ことごとく失敗するというラブ・コメディ。全編、微に入り細を穿った男女の「品定め」と、絶妙な会話が光る。少し意地悪で、めっぽう鋭い人間観察とユーモア。つねにハラハラ・ドキドキさせる物語のうまさ。本当に楽しい小説だ。この新訳は、翻訳に数々の工夫がこらされている。例えば32章、自己顕示欲の強いエルトン夫人に圧倒された際の、エマの心中の怒りを、他の訳と比べてみよう。[原文] A little upstart, vulgar being, with her Mr.E., and her caro sposo, (1)「成り上がりの下品な女! 自分の夫を<うちのEさま>とか、ろくに知りもしないイタリア語で<愛する!
夫>とか呼んだりして。」(本訳)、(2)「それからあの、わたしのE氏だの、いとしい夫だの、・・・いかにもちょっとした成りあがりの下品な女じゃないの。」(阿部知二訳)、(3)「自分の夫をミスター・Eだの、カロ・スポソ(愛しい夫)だのと呼んで、無教養丸出しの成上がり者とはあんな女をいうんだわ。」(工藤政司訳) エルトン夫人が夫のことを「エルトン」と全部言わずに「E」と略して、しかも「ミスター」付きで呼ぶところが、何とも”甘く嫌らしい”のだが、「うちのEさま」という訳が巧い。「ヨンさま」のようではないか。4つの訳の中でも、この訳は、感情表現がとても豊か。


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