Book Review!


作者:T.G.E. パウエル


レビュー: ケルト人の世界 (単行本)

 ケルト人関連ではじめての学術論文だったそうで、雑誌の特集記事的な雰囲気があるヘルムの「ケルト人」より先に読めば良かったかも。図版が豊富で、一般読者をも意識しているため、広汎・多岐の内容を丁寧ながら簡潔にまとめてある。次第にケルト人の像が鮮明になり、読了後には日本の弥生人以上に身近なイメージになった。
 使用されている年表はBC9世紀からAD1世紀までであるが、本文ではずっと後までのケルト人の社会の変化や生き様を描き出している。金属職人の腕の良さに感嘆。この人たちも現代ヨーロッパを形成する諸民族に混ざっていると思うと、ヨーロッパの多様性に改めて感慨を覚える。ダブリン生まれであることを差し引いても、ケルト人に注がれる筆者の温かい視線は、読んでいて心地よい。
 訳者は後書きで英和辞典に苦情を述べているが、翻訳文でも困難の痕跡が消えていない。学者の論文や文章は訳し難いことがあるにしても、非常に読みにくい箇所がある。文章の意味不明、前後との論理不整合、訳語の脱落、指示語や助詞の使い方も気になるし、探し方が悪いのか写真が3枚見つからない。
 そういったことを全部考慮しても、本書の価値はたいしてそがれない。重要な一冊だ。


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