Book Review!


作者:ディエゴ マラーニ


レビュー: 通訳 (海外文学セレクション) (単行本)

最近は不必要に長大化、冗長化し技巧に走り過ぎ滑稽ともいえるサイコサスペンスが溢れています。そんな状況下で本書はコンパクトですがその走行は非常に駆動力/機動性能の高い良品です。大掛かりな仕掛けや奇異な人物像をこれでもかと強調することを必要とせずに、日常に潜む恐怖や理解できない世界像を描き悪魔的な欲望をかきたてるのに成功していると思います。園芸が趣味で温和で凡庸ともいえるスイス人主人公が狂気にさらされ本能のままに生きる一種の催眠状態(「カルパチア版ボニー&クライド」です!)に至るさまは見事です。さらに感染性?言語障害?の謎とそれに絡んだ陰謀の解明もなかなか小粋/小癪にきまってます。

プロの通訳でもある作者は多言語話者のことを「不実でいんちきな早変わりの!
喜劇役者、疎外の綱を渡る軽業師」とし言葉を自在に操るサーカス芸人のような彼らのことを「神に挑戦し、悪ふざけとうぬぼれから、狂気の淵をのぞきこんでいた」などと表現するあたりは実経験もあり独特で秀逸です。--はじめに言葉ありき。言葉は神とともにあり。言葉は神なりき--という文面なども即座に想起されたり言語に対する示唆に富み、言語と社会・個人との関係などの洞察も呼び起こしてくれます。匂いもキーとなっており主人公の情動面での暴走も含めて古い/旧い脳機能に対する探索の物語といえるかもしれません。(ミュンヘンの言語療法クリニックの描写もおもしろく重度の異言症の方のためには日本語による隔離療法もございます)


更に詳細を見る