Book Review!


作者:村松 定孝


レビュー: 近代作家エピソード辞典 (ハードカバー)

 時代が作家を生み、作家が時代を作る…とも言われるように、彼らの作物には「時代思潮」の反映があり、ふともらしたことばにもその背景と人となりを読み取ることができる。
 坪内逍遙早稲田大学の先生をしていた時、学生がよく借金をして返さなかった。ある学生が返しに行ったが、妻が知って他の者と差別するようになったら、申し訳ないから受け取らなかったという。その学生の父親は終生逍遙に尊敬の念を惜しまなかったという。
 森鴎外はドイツで知り合ったエリスのことが忘れられず、次女小堀杏奴が友達を連れてきているのを見て、「ドイツで知り合った人に似ていて、辛い」ので、連れてこないようにしてほしいと言う。また、思い出のカフスボタンを激戦地でなくしたことを嘆く。
 菊池寛??!
?一高時代盗みのかどで濡れ衣を着せられた。しかし、友人思いの寛は何の弁解もせず、それに従い京都に転校した。後進の育成や先輩の顕彰につとめたのも同じ道を歩む人々へのヒューマニティによると言える。
 井伏鱒二は、左傾した同人達の当時の意地悪を今は気にしないというヒューマニズムこそ、井伏文学の底流としとて人間愛の発想を支えていると言う。「山椒魚」を読むわれわれは、ここに注目すべきかと思われる。
 その他50人の作家のエピソードが書かれていて、それぞれ興味を惹く。 


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