Book Review!


作者:山田 風太


レビュー: 明治バベルの塔山田風太郎明治小説全集〈12〉 (ちくま文庫) (文庫)

紛うかたなき天才、山田風太郎はその晩年に明治小説全集を続々刊行していく。それは全てが抜群に面白いものであった。まあ、風太郎先生の書いたもので面白くないものは皆無、その点ではかのモーツァルトにも比すべき芸術作者であろうか。

本書『明治バベルの塔』には、「牢屋の坊ちゃん」というトンでもない傑作が入っているので特筆大書しておきたい。
漱石の『坊ちゃん』が書かれて100年あまり。近年は、その登場人物の一人である「うらなり」を主人公とした小林信彦の作品も登場した。風太郎作はパロディとしての先達であるのみならず、評者は『坊ちゃん』そのものより「牢屋の坊ちゃん」を愛する。
牢屋の坊ちゃんは実在の人物であり、彼は漱石その人が松山へ赴任するのとは逆方向、当時??!
?釧路監獄へ送られる。この坊ちゃん=小山六之助は、日清戦争の講和で来日した李鴻章を狙撃した男なのである。

本書には、その他、幸徳秋水を超絶技巧で描いた「四分割秋水伝」、牛鍋チェーンの木村荘平の破天荒な商売と人生を描いた「いろは大王の火葬場」、明治の巨魁・星享と最期の武士を描いた「明治暗黒星」などを所収。いずれも一読夢中となる怪作、傑作揃いだ。


更に詳細を見る