Book Review!


作者:木村 衣有子

レビュー: もの食う本 (ちくま文庫) (文庫)

食べものについて書かれた40余種の本を俎上にのせ、きらりと光るフレーズを抜き出し、著者らしい切り口で料理してみせた書評エッセイ。全体に漂うのはどことなくアンニュイな渇いた雰囲気。まだお若いのに「やさぐれた」などというヤクザ言葉を使ったり、大時代な響きの「さりながら」などという接続詞を多用したりする。そこに生まれる微妙なきしみが計算されたものかどうかは知らないが、独特なたたずまいを持った文体になっている。取りあげられた本の中には武田百合子(泰淳の妻)の『富士日記』や森茉莉の『貧乏サヴァラン』などがある。富士日記は私の愛読書で、毎日の出来事を備忘録的につづったものだが、朝昼晩に食べたおかずと買い物した中身がさりげなく記録されていて、それを目で追っていくだけで!
心が和んでくる。不思議な日記なのだ。木村衣有子は《無防備で洗いざらしの美がある》と評した。面白い言い方だ。この『もの食う本』には無防備でも洗いざらしでもないが、田舎出のおませな文学少女が都会へ出てきて、思いきり背伸びし、ちょっぴり斜に構えて訥々と語った、というような雰囲気が漂っている。鬼面人を威すような発想や、キリで揉むような論理があるわけではないけれど、スローでたゆたうような著者の息づかいだけは聞こえてくる。


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